ミラノ 霧の風景の後

このタイトルが、知られた須賀敦子の書名を受けたものだとは、すぐ理解されるだろう。それほど、この街の雰囲気を表す言葉はそうざらにない。

ミラノの冬は暗く寂しい。どこにもある大都会の寂寥そのものである。太陽の国、イタリアのイメージからはほど遠い。アパートの窓から飛び降りて自殺する老人が後を絶たないとも聞いてきた。霧の濃度は市内でこそ薄れるが、一歩街を出ると、2,3メートル先が見えないことがざらにある。

須賀敦子も言っているが車で郊外を走るのは、だからただ事ではない。センターラインンの白線だけが頼りで、そのため半ドアにして路面を眺めながら走ったり、前の車の赤ランプだけが頼りだったりして、その結果、人の家の庭先に入っていってしまうこともある。慣れなければ、ある種の恐怖感が付きまとい、一人で運転していれば寂寥感も迫ってくる。

幸い、事故を起こしたことは無かったが、市内に辿り着き、街路の薄明るさや、レストランに入って酔客の喧騒を聞くと、生き返ったような気になったものだ。