緊張の戦略About the Strategy of Tensi

脅しに慣れ、より緊張を求める社会風潮
日本の行方が心配になる今日この頃



祖国を思う気持ちは、海外滞在が長引くほど強くなるもののようだ。
気が付かないうちに、ロンドンに渡った夏目漱石を書いた本(江藤淳)を取り寄せたり、無意識に放っておいた吉村順三の和を意識したディテールなどを研究し始めていた自分に気がついたことがある。でもそんなことならまだいい。国が危ない、と思いだしたら気が気でなくなる。
それは不思議なもので、一度、長期海外滞在してみなければ、向こうから迫ってくるようなことはないような、外からの、あるいは高みからの自然な視点なのだ。
逆に言うと、国内にいる日本人の現実の被害や緊張への認識は、それがあまりにも日常化し過ぎているために、不感症になっているということもあるのだろう。

ミラノの深澤さんも、そういう外からの視点を持っている。
最近来たメールを転載する。


大倉 様


お元気でしょうか。御無沙汰しております。
ミラノは春になりました。
しかし天候不順で今年はかなり肌寒い日が続き、一旦暑くなり、又下がり、上下振幅の多い天気が続きました。
これは昔から変わりませんが、紙くずや干からびた犬のクソが舗道にこびりつき、やけに大きくなったでこぼこの舗道の荒さ加減が、人々の気持ちや社会を映し出しているように思います。


イタリア政府は緊急財政再建案を出しましたが直ぐには回復せず、経済はより悪くなっています。中小企業の社長の自殺も耳に入ります。国民は増税を心配し税務署員は脱税の取り締まりに精を出しています。
しかし、肝心の経済回復までかなりの年数が掛かるのではと感じさせる今日この頃です。


日本のニュ−スを追いますが、気になりますのは、東京都庁、東京直下地震で被害はどの地域でどの位とか、学者が緻密に御丁寧に予想死者数まで上げていて、日本人は、いや都庁はシニカル、ニヒルだと思わざるを得ません。
官学一体となり、都民や国民に脅しをかけているようなものでしょう。死者数など余計なお世話だとは言いませんが、それでは具体的に都としての対応策
(これは広報しているのでしょうか)を予想被害情報と同じ量を流さねばならないでしょう。
それが進歩する文明と云うものでしょう。生きる為の文明で、あなた諦めて死んでくださいと言ってるようなものです。やる気が無いの、どうの以前の精神のありかたです。


これは、他の見方をすると、国民社会に緊張を与える戦略とも言えないか。一つの学説があるのですが,"緊張の戦略"(Strategy of tension)と呼ばれるもので、(イギリスの週刊誌、ザ・オブザ−バ−に、1969年に始めて出た論考だそうです)、かって60年70年代、トルコ、ギリシャなど軍事政権国での治世の方法で、御存知のイタリアも60年代後半から70年代、80年前半まで数々の爆弾事件と一連の赤い旅団によるテロにより、強かった左翼の力を弱めました。(影でのアメリカの介入が大きいといわれます。)"緊張の戦略"は人々を保守化、右傾化させ政権を弱体化させ強いリ−ダ−を待望させます。思いすぎかも知れませんが、日本の政界の中で考えている人が居るのでないですか。


深澤正篤

ps 12月に、中国のある都市に日本の方が出店する計画が入り、進めましたがストップしています。ハッキリ分らないのが問題ですが・・・・