*「リメンバー・ミー」Ricordate di Me

*あるイタリア映画の話


知っている人は少ないと思うが、家内がビデオ・レンタルから「リメンバー・ミー」という聞きなれないビデオを借りてきた。


リメンバー・ミー(原題Ricordate di Me:リコルダーテ・ディ・メ=イタリア映画。英文通りの「私を思い出して」という意味。ただし、「あなた個人」に思い出してもらいたい場合、一般にMi Ricordi、Mi Ricorda(敬語的)でどちらも軽く会話的, 文語的にはRicorda di Meと言う。このリコルダーテの場合は「あなた方、皆さん」が、という意味になる。つまり、妻を始め、登場人物すべてが、という意味でもあろうし、拡大して視聴者にも及んでいるのかも知れない。オホン!)。レンタルなので、監督の名前も控えていない。

確かに、妻と息子と娘に言っているのか、友達、知人までも含むのか、その辺はあいまいだが、「家族よ、僕のことを忘れないで」というあたりが正解だろう。嘆願とも見えるのは、人生の先が見えた男の悲哀が滲み出ているからだろうか。それが示すように、典型的な現代の北部イタリア中流家庭の内情を描いている。


グレかけた18、15位の娘と息子を持つロマンス・グレイ(古い!)の父親が、妻との間に性交渉もなくなって、仕事も面白くなく、上司と喧嘩して退社。行き場も無い所に昔馴染みの女が登場、二人は急速に接近、妻はこれを知って半狂乱。夫(ファブリーツィオ・ベンティヴォーリオ)はますます妻から離れて行き、本当に家出をした瞬間に交通事故に逢い、瀕死の重傷から生還。一家が再びまとまるという話。この間に、娘のTVタレント脇役オーディション合格までと、息子の私生活が並行して語られて行く。経済的な話は一切出て来ない。
家族に向かって、自分の人生の岐路における醜態をさらけ出した上で、真の家族愛に目覚め、共感を求めるという設定。世代的に同じ範疇に入るとは思えないが、身辺事情は痛くよくわかる。


なぜ、こんなに書いたかというと、テンポと切り替えが気持ちよい程度に速く、てらいのない出来のよい映画であるとともに、最現実のインテリ・イタリアンの生活情景がよく描けているからで、自分のイタリア生活の周辺にあった現実を目の当たりに見る思いがしたからだ。北部イタリアでのデザイン事務所勤務とはこんな人たちに取り囲まれていると言える。但し、彼らはプライバシーを所員などには見せないだろうけれど。
それで何となく、この「情景」をブログでも記しておきたかった。

ここには、いい加減で、愉快で、楽しいイタリア人という、日本人好みの世界は無く、イタリア語を話すというだけで、日本人とまったく変わらない煩悩を抱えて悩む人々の姿がある。
ただ、着る物や、シーツ、ベッド・カバーなどから、パーティをやっても背景としてしか出てこない住居のインテリアは、どの家も、どの男女もある程度の良いテイストを示しているし、若い男女も可愛い割に大人びていて、この当りは、もう少し日本の上を行っているかも、という点で、デザイン的に見ても楽しめる。


それにしても、ここは何処だろう。映画の中では街の名前は語られなかった。
山並がせまって見えたから、ミラノではなさそうだ。街のスケール感からするとトリノだろうか。しかし、トリノでも山はそんなに近くなかったようにも思うし、再会した彼女と河岸をデートして歩くシーンはトリノでも可能だろうが、不幸にして河岸を知らない。ありそうな河岸と山の端のイメージとしてはヴェローナが浮かぶが、ちょっと小さいのでは。
街の近代性という感じからは、ボローニャフィレンツェとは考えたくないし、当然それ以南(ローマなど)は絶対無いだろう。登場人物の雰囲気や会話が北部のものだからだ。


北部のしゃれた生活情景とセンスが身につまされて来るといった映画だった。
見る機会があったら、一見をお勧めする。