美しきクラスメイトの現在

コーちゃんに見た青春の現存            10月4日:本人の希望により修正追加あり(*部)



「Sを吊るせ!」
高い天井の、大きなアトリエのような教室の壁に貼り出されたメモをみて、僕は胸騒ぎがした。Sとは、ある講師のことで、何かあったらしい。
明治のレンガ建物で、三方の高窓からは新緑のそよ風が流れ込んでいた。やっと合格した美大の新学期だ。
良いのか、悪いのか、その時は何だか解らなかったが、こういうのが学生のやり方なのだろうと思い、ほんのしばらく前まで無垢な高校生だった身には妙に自由な感動が走った。
これを貼ったのは後で通称、コーちゃんと呼ぶようなった川村康一君で、「君が書いたの?」「ああ、そうだよ」ということで、最初に知ったクラスメイトの1人になった。
コーちゃんは、およそ信じられないくらい人なつこい人物で、田舎者の僕にも別け隔てなく接してくれた。それでいてキラキラするような東京人の感覚を持っていて、ギャグも巧いし着こなしも良かった。特にラフなジャケットとスリム・パンツ、ブーツ型の靴姿がカッコ良かった記憶がある。その後、今日に至まで、何かの折には会っている。言う事は単刀直入、「え、そんなこと言っちゃっていいの?」と思うような発言も、アーティストとしてのコーちゃんなら許される。というより、悪意を感じないのだ。それが上の掲示板「事件」にも既に現れていた。
ご本人の話によると、「後で実感したことだがあれは2年間の浪人後、晴れて憧れの芸大に合格。そこで感じた教授たちの、特に一番若い講師の権威を傘に着た威圧的態度に失望したためだ。後進を指導する者には、大学の象牙の塔の内部や、ヒエラルキーを上ることに腐心するような人ではなく、在野の厳しい実体験が必要だと感じた。ブランド大学の教授職が世を渡る武器として有効なのであろうと想えた次第」とのことだ(*)。


この上もない美女でやさしい奥様が、僕のサラリーマン時代に、実は同僚の妹さんだったこともあり、さらに親近感を抱くようになっていた。田園調布に居を構えていた夫妻との縁から、出会いの場を作って貰ったりしながら交際。ここには若いロバート・ホワイティングなどが出入りしていて楽しかった。最近になって知ったのだが、洒脱で楽しい文体で人気の、亡くなった佐野洋子などとの交遊も深く、夫妻合わせて相当の、こちらの知らない人脈を創り上げてきたらしい。
平面(グラフィック系デザインの専門別称)の中でも最右翼と言えるイラストレイターという職業に向ったので、仕事の上では特に接触は無かった、というより、なにより僕が10年も日本に居なかったことが大きい。
帰ってきてからだろうが、一時、リトグラフをやりたいと思い相談、いいところまで行ったが仕事が忙しくなってまた離れてしまった。
最近、同窓仲間だった川路陽生君の葬儀の折に再会。その後、以下に添付したような作品を送ってきた。
作風表現が、相変わらずのやんちゃな少年のまま熟成した、と言う感じがたまらない魅力。体得したおのが直感への変わらぬ信頼。それが素直に現れている。この犬・猫シリーズとも言える作品群で最近、展覧会を開いていてファンも多いらしい。



ご本人の了解を得て、本年7月1日の連絡から転載。


大倉さま
元気なことと思います。
梅雨でうっとうしい、ひどい雨のニュース、現地の人々には申し訳ありませんが、天気はやがてかわります。でも、このうっとうしい日本の状況はいつまで続くんでしょうか。ほんとうに現政権にはうんざりしています。


今日から、日曜画家グループチャーチル会日本橋三越での展示に参加します。
この会には東京に住んでいたとき、近所に出来た友人のご主人の推薦で17年前に入れてもらいました。
この人は当時会の幹事長だったので、強力な推薦を得られたのです。
生活のため仕事でイラストレーションを描くことに少し飽き、もっと自由に描きたいと愚痴を言ったところ、入会を勧められた次第です。
でも、いざやろうとすると、自由に描くということが、とても大変なことと悟りましたが。
オーダーではなく描いた絵が、展覧会場で全く面識のない人に買われた時は感動したものです。
当初、会員は社会的ポジションの高い人達と知っていて、やや腰が引けていましたが、親しくなる人も増え、この国のエリートコースを歩いてきた人など、自分の通常の人間関係では、決して出会えないような人とも友だち付き合いをしてもらっています。
その後入って来た人達の選ばれ方を見るにつけ、よく自分がOKになれたなあ、と思ってしまいました。

今回の作品を添付しましたので見てください。アクリルで描いた8号2点です。下の文字は画題です。
川村康一



「コウレイ車と15歳のボク」
(車の窓のシートは廃車ではないということで、Car is not Abandoned と書きました)



「イギリス館の裏庭で、表顔のボク」
(横浜のイギリス館のスケッチをアレンジして描きました)


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