クラウド時代の思考術

(((())))テレビ放映や新聞記事の価値の再評価を試みる
●印間追加:3月30日19:00

●2印間追加:4月2日12:00



人間は日々の空しさから逃げるために、あれやこれやと試行し、あるいは思考している。またカネのために追われ、疑い、戦略を立てる。さまざまな要因を創って、自分をそれに引っ掛けている。
これは日々の空しさが自分の死に対して抗えないところからの叫びであり、求める救済の姿だと言えよう。


このことは、前の日の本ブログで「虚栄」という言葉を使い、それを引き立てるために「虚無」という言葉を使ったことの別の言い方だが、その言い方がどうも古い哲学用語のようなので言い換えてみた。


それはそれとして、そこには「テレビから得た教え」を続けて、このような話題に持ってきたわけについて、しばし考えざるを得なかった自分の想いがある。どういうわけか内にテレビ放映への定まらない評価があって、そのために言い訳がましくなる己が姿が見え隠れするからだ。

「テレビ報道はもう古い、ネットの時代だ」と言いながら、機会があるごとにテレビを見てしまうし、言ったように、いい番組、好きな番組が無いかと探してしまう。時間もないのに。
ネット時代を真に受けてテレビなど見ない世代も増えているとなると、考えてみると現代は、「情報化時代の思考法や評価軸の再考時期」に掛かっていると言ってもいいのだろう。


20世紀を「映像の世紀」と言ったように、映像によって事件が報じられ、巨人やスターが生まれ、その後裔として現代に至り、人から目立ちたいという欲望を刺激し、それが自己目的化して変な人間がメディアの中央にいるという社会になった。最近,また再確認されているポピュリズムの拡大である。その中心にいるのがテレビ報道ということで来た。それはよほど知的な編集作業を経ないと、一方通行であるだけに映像操作だけで人心を揺さぶるだけだということが判っている。
一方、インターネットがもたらした社会は,過剰な情報の提供により、時間を掛けて自分の知が組み立てる思考力を打ち砕き、他人情報をあたかも自分の知識であるかのように誤解する人間とその社会を生み出してきた。
最近発刊された「クラウド時代の思考術」(*1)という本はそのことを問題として、「アメリカ人、とくにミレニアル世代がどんどんバカになっている」と言う。そこには「能力の低い人間ほど自分を過大評価するという現象」(*2)があり、そのベースにインターネットの肥大があるとする。
テレビもインターネットもその利用法を間違えば、現代人を掻き乱し、本当の知の人材を社会の中心に置くことを忘れるだろう。
でも評者によれば(*3)、「著者は対応策として、新聞やテレビなど、プロによって編集された従来型マスメディアの重要性を強調する」という。
自分がテレビや新聞に振り回されている以上、その意は大いに判ると言いたいが、もしそうならその正当性は、編集プロが本当に現代を俯瞰でき、死に対する生の意味を計れる知の人間とその集団である、という条件付きということだろう。そこが難しいのだ。●言うまでもなく、メディアに関わる多くの職業人は「サラリーマン」である。自分の出自から考え、組み立てた論理でこの社会に対応しているわけではない。明日の給料の安定の前には、どんな論理も実行力に欠ける。●
評者も「処方箋としてはいささか頼りない印象はぬぐえないが…」と言っているが…。


●2 その上で、ここには大筋テレビ系と新聞系についてでも、改めて注意しておくことがある。両者とも編集者側の立ち位置については同じ要求だが、視聴者、読者については、映像と言葉による理解力の差が大きく、また異なっていることへの納得が無ければならないということだ。
映像(言葉を含む)で理解することと、言葉で理解することには、やはり学習努力とその結果による判断力の差に大きな違いがある。言い換えれば、言葉の理解が深まれば(映像でも深めることが出来ると言う人に反対はしない。ただし深める内容は全く違う)、映像での語りについても余裕をもって判断できるということだろう。ということはやはり言葉を主役にする領域(新聞、書籍)が大切にされなけれならないということだ。もっとも、表面的な事件報道やスポーツ記事、趣味の記事などがいくら読めても、それだけではテレビ受像と大して変わらないということになりそうだが。●2


そんな偉そうなことを言い聞かせつつ、自分を信ずるという前提の上で、最近、テレビや新聞情報頼りが多くなっている自分を許す、という気持ちの余裕が少し生まれたのも事実だ。


(*1)ウイリアム・パウンドストーン著、森夏樹訳、青土社、2592円
(*2)この現象のことを「ダニング=クルーガー効果」といい、アメリカの心理学者が1999年に発見した。
(*3)評者は東大教授・科学技術社会論佐倉統氏。朝日新聞書評、2017/3/19 による。






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