「個性を生かす」展開の難しさ

誰に来てもらうか。


今年度の企画事業(対談やセミナー)の登壇者選択で悩んでいる。
デザイナーや建築家だけで話しているのは、もうどうも狭い。
かと言って、一歩、近隣世界を離れると、とたんに誰と話せばいいのか判らなくなってしまう。


今日の日経新聞朝刊に「W(Women & Work)」という特集ページがあり、「リーダーは個性を生かす」という大見出しが目に入った。
「個性を生かす」だって! これって、僕の(というより当協会の)大命題じゃないか。
サブ見出しが「小林りんさん・西水美恵子さんに聞く社会を変える力」。
ん!? 「社会を変える力」だって! 
ますます「俺達の!」という気になる。


面白そうで読み進めるとなるほど興味深い。
西水さんは
「真の意味で多様性を受け入れることができるリーダーが求められている。自分にはない価値観を尊重し、それぞれが持つ文化や専門性を受け入れ、本気ですごいと思えること……(そういう人が)リーダーシップを発揮できる」と言う。
小林さんは
「日本でダイバーシティ(注:多様性)というとジェンダーや国籍と捉えられがちだがそれだけではない。十人十色の個性や多様性を生かすことが、リーダーの役割だ」と言う。
これは自分の想っていることと同じだ、との感じ。例えば、このような人達と話し合いをすることが有意味なんじゃないか、と思えてきた。


でも次の瞬間、お二人が意識している対象者は現役企業の経営者に近い層や、世界的レベルでの地域活動家だろうということが感じられてくる。
何せ、西水さん(69歳)はプリンストン大学経済学部助教授から世界銀行へ。南アジア地域副総裁で退職してからは世界各地で次世代リーダーの育成や講演をしているという。小林りんさん(42歳)は大学で開発経済を学び、外資系証券、ITベンチャーユニセフなどを経てインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)を設立し代表理事を務め、150人の生徒が学んでいるという。


これじゃあ、表向きでも「デザイン」に何の接点も無いじゃないか。
お二人に「デザインが・・・」と言ったとたんに、「『デザイン』て、かっこいいものをつくる仕事でしょ?」とか、「お金稼ぎの手伝いでしょう?」などと言われかねない。それから説明するんじゃ、何の番組かと言うことになる。つまり「裏」でも同じだろう。
確かにお二人とも「多様性」「個性」「自分にはない価値観」を称揚し、取材した佐藤珠希編集長も、二人の言う「謙虚さと思いやりの必要性」を挙げ、「埋もれがちな少数者の声を聞き、異なる立場や価値観を包み込みながら新ビジョンを示せるリーダーが必要だ」と締めくくっている。
これだけ聞けば、もう一度、何とか接点はあるんじゃなかろうか、という気持ちにもなるが、二人の言っている「原体験が非常に重要」という発言を知り、「ガハー」となる。
原体験があまりにも違い過ぎる。


小林さんはユニセフの職員としてフィリピンに赴任した際の貧困層教育体験の前に、高校時代のカナダでの体験。友達の実家に遊びに行くと、バラック小屋でドラム缶に雨水をためて洗濯していた。その彼女が自らを「ミドルクラスよ」と言ったこと。そのときの「貧困地区の臭いや熱気が今にある」と言う。
西水さんは、エジプトの貧困街で脱水症状で衰弱しきった少女が自分の腕の中で息を引き取ったことが世銀への転身を決意させ、南アジア地域担当局長だったとき、ヒマラヤの貧しい村に2週間滞在して「視点がガラリと変わった」と言う。
こういう背景は明らかに人を変えるだろう。
貧困、生死、国を動かす者の汚職の直視などは、例えば、「ヒマラヤの巨大な山塊に注がれる夕日を見ていたら人間が変わった。芸術に体を張る」などということとは全く違う。前者は最初から意識は外部(政治活動など)に向うが、後者は本質的に内部(個人の内面)に向かう。僕らがやりたいことは内部に向かう体勢なのに、そこにもある「(彼女たちから見れば)どうでもいいかもしれない外部性」に向かおうとしているのだから、一見、似ていても立ち位置の差は歴然だ。
救いは、外部に向かっても心は内部にあるということだろう。そこにはカネの話はない。


同じような言葉を使っていても、逢い見(まみ)えることはないと思うしかなさそうだ。
一体、誰に来てもらおうか?







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