「モリスと現代日本の事情

【日記】


「社会の変革なくしては芸術の再生は不可能だ」 ウイリアム・モリス



日本デザイン協会という団体がある、と他人事のような言い方はすべきでないですが…。
どこかですでにご紹介していると思いますが (後記: なんと、このブログのほとんど出発点となった2007年1月25日にその紹介があります。「『NPO日本デザイン協会』の可能性」)、この団体のホーム・ページ(HP)を見ていただきたくてご案内します。
実はこのHPに昨日、過日開催の「ウイリアム・モリスと現代」のトーク内容をPDFでアップしているのです。18ページになるのでちょっとヘビーですが、現代デザインの行方について、何らかの示唆があると思っています。
「日本デザイン協会」と検索するだけで出てきます。
さしあたりイントロとして、そこに抄録を出しているので、その部分だけ、以下に引用しておきます。
(なお、本記事最下段に本ブログでのモリス関係の掲載記事記録をまとめておきました)。



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NPO法人日本デザイン協会H26年度事業「ウィリアム・モリスと現代」トーク抄録


今の日本に教えるものがある


19世紀のイギリスのデザイナーとして知られているウィリアム・モリスは、デザイン系の美術大学などでは、産業革命と前後して活躍した「デザイナーのはしり」として必ず出てくる人物です。
ところが、その業績を見ていくと、とても一介のデザイナーなどでは収まらない姿が見えてきます。
それは詩人であり、物語作家であり、今でいうグラフィック・デザイナーであり、テキスタイル・デザイナーであり、その技術士であり、それらを活かして会社運営を軌道に乗せています。それどころか、環境問題に言及し、社会主義運動をした活動家でもあったのです。
ここで重要なのはモリスが、「労働」を楽しむべきものとして扱い、その後の社会主義運動に影響を与えたことです。エンゲルスの「空想から科学へ」という著書をご存じかと思いますが、この「空想」は遡ってモリスの著書「ユートピアだより」のユートピアからきているのですが、それを日本語訳として「空想」としてしまったのです。エンゲルスは「もっと科学的に」とモリスの考えを批判して、マルクスと共に改革の主導者になったのですが、その後、社会主義共産主義も破綻に瀕しています。
ここで改めて、現代の視点で見るとモリスの労働の概念が、深い意味を持っていることが感じられるようになったのです。その「楽しむべき労働」とは、手仕事や、現代でいう知的創造行為などで感じられる、「それをやっていることが幸せ」であるような労働の感覚を言っているようで、究極にたどり着くのが芸術家の無垢な創造意欲のような状態を想定できるのです。そのような理解によって、モリスの言う、「社会の変革なくしては芸術の再生は不可能だ」という思いが想像できますし、また創造活動と政治活動を繋げることもできるのです。そしてその精神は「デザイン」に通じるものであるのです。
改めて今の日本の社会を見ていると、このような大きく、根本的な社会問題を認識させてくれるウィリアム・モリスの存在意味を感じさせてくれた一夜で、俊秀が多く集まった50人になる参加者で盛り上りました。


このトークの記録は、日本デザイン協会ホーム・ページ添付のPDFファイルから読み解くことができます。


対談者:川端康雄日本女子大教授×大倉冨美雄当協会理事長
総司会:山本想太郎日本建築家協会デザイン部会長
NPO紹介:木村戦太郎当協会理事
対談日:平成26年9月19日
場所:(公社)日本建築家協会JIAサロン(渋谷区神宮前)
この企画は当協会と日本建築家協会デザイン部会の共催です。


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本ブログ上でのモリス関連記事の記録:

●2014/3/9 「モリスとその周辺事情が教えるもの」
      展覧会を見て、改めてモリスの生きたイギリスの19世紀時代のことに思いをはせ、自分の立ち位置を考えさせられた、という内容。

●2014/3/13 「この硬い、宝石のような炎で―英国の唯美主義から―」
      心を動かされたペイターの言葉につられ、訳者の川端先生に手紙を書いたこと。

●2014/9/22 「モリスに学ぶものは何か」
      当夜の参加者の一人、神田順教授のフェイスブックでの感想披露を受けて、許可を頂いての転載。