磯崎新が語る山口勝弘

#印:追記
●印:さらに追記:同じ夕刊紙にあった別の記事、「荒川修作+マドリン・ギンズ」に関すること。


対外的、体内的?
建築界の外に向かって言おうとしているのか、
実は、建築界の内の実情を代弁しょうとしているのか?



過日、発明協会の会議の後の懇親会で副会長さんがこんなことを口走った。
「最近、通勤電車で新聞読んでいるのは私だけなんですよ。気が引けてきて…」
委員の皆さんの笑いを誘ったが、他人事ではない。
新聞も、夕刊を取っている人はどの位、いるのだろうか。
我が家でも、意味が無いと言われて何年も経つ。
それでもまだ取っているのは、まったく時々しかだが、面白い記事に出くわすことがあるからだ。
昨夜の、「メディアアート 軽快な仕掛人――造形作家・山口勝弘さんを悼む――」を寄稿した磯崎新さんの記事がその例。(朝日新聞夕刊5月29日: 頼まれたのでなく、寄稿して取り上げてもらった所に、すでに格差がある。つまり一般にメディアはこの種のことに関心がない。 磯崎さん?有名人? なら出さないわけにはいかないか、といった程度だろう)。


最近聞かなかったが、山口勝弘の名は随分昔から知っていた。そうだろう、磯崎さんたちの年代に属し、アートの混乱時代を共に生きた世代だったはずだ。だから磯崎さんも特別の想いがあったのだろう。享年90才だった。
まずこの記事への評価は、建築家がアーティストを取り上げていること。最近の建築家でアーティストを語れる人がいるだろうか?
磯崎さんはそろそろその最後の人なのだ。この背景には、「建築家」という職業の大きな「転換があった」からだと言いたいが、「転換」ではないという人もいるだろう。
磯崎さんは投稿の中で、建築との関わりとか、自分と山口との関係などについては一言も言っていない。
彼が言っていることは、「いつのころか、『美の神殿』だった美術館から、誰もが身にまとう情報社会のアートへと拡散し」、「(山口は) 最初から、神殿(芸術という制度)の旧習は無視していた」ということだ。
そして「山口のこのめくるめく疾走に日本美術界は取り残された」という言い方で、自分の考えに符号しているとしたかったのだろう。
確かに「情報ビットは、すでにこの社会の隅々まで浸透している」という視点から、伝統芸術に乗る美術界への批判を通して、結果的に建築への視点も含めた「メディアアートの勝利」を言いたかったのだろうと思われる。
山口の作品紹介は省くが、基本的に共感する考え方である。
# 空間の質や個性、あるいは磯崎時代の言葉で言うと、前衛性を評価の大きな基準にするとき、今では建築でこれを言い、証明するのは極めて難しい。「メディアアート」に代わってもらい「飢えをしのぐ」のだ、と言ったら穿ち過ぎか。#


これで終わりだが、磯崎さんの文章には、どうも少し引っかかる処がある。文体というより、独特な用語の選択のことだろう。どこかで書いたが、若いころ「空間へ」という立派な本を期待をもって買ったが、結局読めなかった記憶がある。もう一つは、山口を「軽快な仕掛人」とすることへの違和感があるからだろうか。僕にはとてもそうは思えないのだ。

このタイトルから始まって、「大文字の〈美術〉が小文字のアートになった」「軽快な身振りがこのマッドサイエンティストの身上だった」「飄々として虚像をもてあそぶ姿は、俳諧人が羨むほどの『軽み』の境地に達していた」ということだが------。
余談だが、磯崎さんは最近、沖縄に転居したそうだ。文芸春秋に寄稿しているとのこと。



●世界を認識するための建築ーー同じ夕刊に
ニューヨークで、荒川修作+マドリン・ギンズの「永遠の輝き」展が開催されているという。(コロンビア大学建築学部付属アーサー・ロス建築ギャラリー)。
上記の磯崎さんの記事を紹介した後だからだろうが、建築家の方から見ると、やってもしょうがないような、無謀な行為に写る所(領域)に食い込んだのがこの2人であり、アートの方から踏み込まなければその勇気は出なかっただろう、と思わずにはいられない。
そう言うことによって、己(おのれ)への責務を逃れようとしている自分を感じるが、その分、改めて荒川とマドリンは本当によくやったと思う。
紹介者の美術史家。富井玲子さんの文章を一つだけ。
「身体を通じて世界'を認識するための思想として建築をとらえ、実現へと移行する転機となったのは80年代だ」
この後、各地に展開した「天命反転」の構想になっていく。
見に行きたいが、疲れている。(6月16日まで)●



(付記案内):これも同じ夕刊紙の記事で、「プーシキン美術館展」を7月8日まで東京都美術館で、7月21日からは大阪の国立国大美術館で、と紹介。フランス絵画コレクションを中心とした「風景画の誕生から『崩壊』の歩み」を、楽しく復習出来そう。年とともに我が心の故郷は、コローになって行きそうだ。









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