やはり人選の段階から問題があるのでは

【論】



日本アカデメイアの「2030日本再生の6大シナリオ」―それでもまだ空論のように聞こえる


話の大きさは問題ではない。まさしく日本丸の舵切りの時になっているのだから。



この大きなテーマは、それが発表されるのが最もふさわしい広報メディアと思われているからだろうか、文芸春秋2014新年号に掲載されているものである。
まず。このシナリオを書いている人物の著者名は無く、岡村正(東芝相談役)、茂木友三郎キッコーマン名誉会長)、長谷川閑史(武田薬品工業社長)、大橋光夫昭和電工相談役)、佐々木毅(元東京大学総長)という、聞き及んだ大手企業と東大の共同座長と呼ばれる人たちの「共同執筆」という形を取っている。この共同座長たちをメインに構成しているのが「日本アカデメイア」の「長期ビジョン研究会」である。
この組織の成り立ちや経過については、ここでは省略する。すぐ本題への感想に入りたいからだ。


語られている内容は、ほぼ正論であろう。だから、この論理ですぐにでも行動を起こしてもらいたいと思うのも実感である。というのも、言うことはもっともでも、やるとなると実態が無く行動システム化できず、総崩れになりやすいのがこの国の日常の姿だからだ。


ともかくも組織とメンバーは凄い。「財界、官界、学会、労働界、トップリーダーが大集結」と頭書きにあるように、5つの分野に90人ばかりの名前(掛け持ちもある)がある。
気になるのはこの分野と人選である。
分野は「日本力」「国際問題」「価値創造経済モデルの構想」「社会構造」「統治構造」の5分野で、これでいいのかどうかはまだ議論がありそうな気配も感じるのだ。
例えば、製造や流通/運輸、情報/メディア、金融/保険、人材(労組・主査/学識者)、官僚などに比べて、まちづくりや景観、観光などに関わる分野はどうなっているのかわからない。
事実、それを証明するように、この人選に引っかかるものがある。そのような分野の発言できそうな人がほとんど居ないからだ。
居るのは不動産・建設・設備系の4人だけ(木村恵司三菱地所会長、大林剛郎大林組会長、岩沙弘道三井不動産会長、それに藤森義明LIXILグループ社長は入れたが、井上礼之ダイキン工業会長となると製造業だろう)だ。それも、この方々がアクティブな空間概念を持って判断できるのか、わからないということもある。
都市や環境に関わる官僚も少なく、藤井健国土交通省大臣官房審議官、栗田卓也同省大臣官房人事課長の2人のみ。金丸恭文フューチャーアーキテクト会長というのは職分不明。


こうして全体を見渡すと、詳しく分析していないが自分都合の大まかな分類では以下のようになるかと思う。
製造関係:約7人(主にハードだが、自動車、電機、造船などがいないのは面白い)
流通/運輸関係(薬品、化学商品、衣料、食品、たばこ、商事なども含むとする):約14人(ちょっと多すぎないか)
情報/メディア関係:約2人(日本電信電話KDDIの両会長。IT系はいない。この分野は少なすぎる)
金融/保険関係:約8人(ちょっと多すぎないか)
人材(労組・主査/学識者)関係:労組約15人(ちょっと多すぎないか)、学識者約23人(専門分野がわからないので、何ともいえないが、多すぎないか)、
官僚関係:約19人(多すぎないか)


これで何となく感じるのが、IT/メディア系が少ないのと、クリエイティブな個人が全くいないということだ(わずかに廣田尚子がいるが、女子美大教授である。プロダクト・デザイナーである彼女の周辺構造は知っているつもりだが、「飾りの女がいない。若くてクリエイティブな分野でいいから誰か入れろ」と言う人選の感じ)。
流通/運輸関係はモノを生み出すにしても、ここに出てきている人物たちはマネジャーである。金融/保険関係の人たちとなると、モノ(実態)に関わることも無い。
学識者の分析はしていないが、大体どういう人種かわかる。これらを「人材」担当として一括したのは、彼らはほとんどが「クリエイティブ」な行為には掛かわらないという視点を意識してである。
(それにしても、東大5人に対して慶応大が6人もいる。他の大学は合わせても7人。両大学の総長、塾長が共同座長になっているから、これも推定できるとするが)。


以上から言えることは、産業界、経済界の大手企業トップはごろごろいるが、それすなわち、現状の産業構造を良しとした上での将来推測が主軸になっているのでは、ということがある。ソフト・パワーへの理解がどうなっているのか見えないし、これで次のテーマ(問題提起)ではやはり既存の産業界の救済が主眼になってしまうように思えてならない。

1・世界の視点で日本をデザインせよ
2・対外は発信の抜本改革を
3・人口減少社会の国家戦略を立てよ
4・イノベーション力を強化せよ
5・社会を引っ張る「中核層」を発掘・育成せよ
6・国会・政治改革を推進せよ


(時間が無く、更に後述)