両面に渡る問題意識
建材と法規
どうもこの話は難しい。
この話とは、自分のやっていることで言えば、今度の本にタイトルとした「クリエイティブ〔アーツ〕コア」の実態内容に関わることだ。
判りやすい例から近況を交えて言おう。
今度は建築系の話でする。
例えば「住まい」を考えるとき、見える形で「建てる」、「住まう」など具体的に考える立場と、そのことを成り立たせている背景の問題である「法律」、「社会」、「文化」などから考える立場との二通りがあることは納得して頂けると思う。
前者は、実際の建築設計に関わることで、どういう構造で、どういう建材を使ってどんな空間の住まいを造るかということになる。
一方後者は代表例で言えば、現在の建築基準法がもたらしている問題が、大きく「住まい」の在り方を規制している事実をどうしていくか、というようなことになる。
この両者は大きく違い、同時に深く個人として実務で実行しているような人はそれほどいないのではないか。というより、脳内作業に本質的に大きな違いがあり、個人の内面でまとめることもかなりの苦労が要る。両方やるのは相当、苦しいのだ。
前者は帰結するところ、専門家から見ればまさしく「デザイン」行為であり、クライアントととの調整を経て、どんな材料でどう組み立てるかというような話になっていく。視覚化である。一方、後者は理念的な分析、社会的な実態把握などによる思考の流れから、どうやって組織化して法改正などに結び付けるか、というようなことになる。対比的に言えば、言語化である。
この両方の話に首を突っ込んでいるのが、今の僕の立場と言えよう。とは言え、体のいいことを言わせてもらえば、時代の過渡期という認識から自己擁護している(「宙ぶらりん」が正当な立場だとする)ために、どちらの立場にも徹底的に深入りしているとは言えない。そのことを話そう。
まず前者。
今、とても関心を持っているのが外装建材。それも完全エコ建材。
実例で言えば、20年ほど前に自宅の設計で考えた末に「押出し成型セメント板」(具体的には昭和電工の「ラムダ」)を使ったのだが、今、その「成果」が出ている。
元からの性能としては維持しているが、判ってきたことは、太陽エネルギーを遮断するだけで何もそれを利用できていないとういうこと。そのことはこの板が反り返り始め、いかに太陽と自然が熱源として凄いかで感じさせる。断熱建材としても、内装断熱材を入れてはいるが、やはり夏熱く、冬寒い建材であることには変わりない。これは従来建材としての欠点ではなく、建材一般の性能レベルがこのようなものだということを示している。
日本の複雑な四季に対応する、ゼロ・エネルギーかそのものが太陽発電するような建材があれば、次の設計ではぜひ使いたい。そのことだけでデザイン一新も可能だと思う。それをやりたいだけで夢も膨らむ。でも、不勉強もあろうが、知る限りでは現状の建材にはまだまだ不満があり、技術者の一層の協力が無ければパーフェクトな新製品を使えそうもない、つまり自分だけでは生み出せない。
このことを改めて自覚させてくれたのが建築家仲間の大野二郎さん。「快適環境を外装建材で考える時代」と、機関誌で熱く語っていた。(*)
次に後者。
本日、建築基本法制定準備会の集まりがあり、衆議院第二議員会館では多くの専門家が集まっていた。ここに衆参両議員(党派を問わず)で、この法制々定に共感する議員が次々に発言したが(計9人)、議員だけに話は皆、なかなか上手い。
でもよく聞き込んでみると、やはり選挙地盤の地元で起こった経験をベースに話していたり、親父が現場大工職だったとか、卒業大学が建築工学科だったとかという「近隣の思い」で参加している議員が多いように感じられた。そこには、本質的な「文化」としての法規の必要にまで思い至る議員は居そうになかった。
事実、こういう会に参加して発言してくれるなら、議員間で「建築基本法制定議員同盟」のようなものを創る、と誰かが言い出してもいいようなのだが、そういう議員は居なかった。
そのことを、帰りがけに立ち話をさせて頂いた神田順同会々長も漏らしていられた。
とは言え自分が思い付き程度で動いても、それで議員が動くわけではない(本ブログ昨年10月5日、「『その上のこと』でしかないのかも」を参照頂ければと思う)。神田先生もこの後、関係者と対策を協議すると言っておられたが、自分に出来ることはやるとしても、メインは20年近くも頑張って来られた皆さんにお願いするしかない。上記の本を議員に送ったら、とも話したが、今のところ「書棚に積まれるだけかも」ということになった。本当にそのことをやる政治的能力や適性、覚悟があるのかと言われれば、視覚化して「デザイン」するほどには夢を感じない、と思わざるを得ない。理念的な義務意識ということだ。
*:日本建築家協会機関誌JIA MAGAZINE 333号(2016/DEC)「すぐれたデザインの環境建築をつくる」
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