知っておきたい現実

理念をどう活かすのか? 何も解決されていない問題が露呈――「憲章」のゆらぎ
●28日に補記あり


引き続き建築家の話で、つまらない、息がつまる、と思う人も多いかも知れないが、何とか付き合って頂きたい。
昨日、日本建築家協会の通常総会があった。支部役員に推薦して頂いた以上、欠席も理由が欲しい。事実、事務局から個人あての出席依頼メールまで貰ってしまった。


驚いたのは2号議案で、「建築家憲章、倫理規定、行動規範(ガイドライン)改定の件」の、特に「憲章」についてのやりとり。
各議案はすでに理事会で方針が決められており、総会は承認をするだけ、というのが筋書きだが、会場で鋭い質問が出た。

これを記すには、やはり胡散臭くても、憲章の全文を表記してみないと問題の深刻さが判らない。また、一度は知っておいてもいい高潔な内容である。




建築家憲章


建築家は、自らの業務を通じて先人が築いてきた社会的、文化的な資産を継承発展させ、地球環境をまもり安全で安心できる快適な生活と文化の形成に貢献します。
(創造行為)     建築家は、高度の専門技術と芸術的感性に基づく創造行為として業務を行います。
(公正中立)     建築家は、自由と独立の精神を堅持し、公正中立な立場で依頼者と社会に責任を持って業務に当たります。
(たゆみない研鑽) 建築家は、たゆみない研鑽によって自らの能力を高め役割を全うします。
(倫理の堅持)    建築家は、常に品性をもって行動し倫理を堅持します。
公益社団法人日本建築家協会(JIA)会員は上記憲章のもとに集う建築家であり、JIAは会員の質と行動を社会に保障するものです。




泣けてくるような文言。高貴で美しすぎるくらい。平成17年5月27日の改定である。
それにしても建築家という職能をこれほど高みに持ち上げた力はどこから来たのだろう。思い上がるな、と言いたくなるほど、己が職能を高く評価している。
明らかに10年くらい前までは、この高潔さが建築家の生き甲斐であり、JIAの会員であることの誇りであったに違いない ( 他人事のようだが、自分も巻き込まれて来たのは事実だ )。


総会で何が起こったのかと言えば、この、「JIAは会員の質と行動を社会に保障するものです」という文言を取り去るという提議があり、それへの強固な反対があったことだ。
六鹿会長や他の発言者からも、最近、設計依頼者にクレーマーが多くなり、この文言を逆手にとって訴訟を有利に持っていこうとする人が増えており、このままではJIAとして対応しきれなくなってきたからだ、という。訴訟の一般化であり、会員と団体の乖離、建築家の社会変化も関わっている。
ところが会場からは「この文言を守るためにJIAは頑張ってきたのではないか。これが無くて、個人会員を誰がサポートするのか。育てず、この文言を組み込まないで保持もしなければ、社会にも認められない」との強硬な主張がまず、あったのだ。
これを言ったのは会員歴も長い中田準一さん(要確。またご本人の了解も得ていない。前川事務所)ではないか、と思う。

個人的には「ああ、やっぱりこういう人もまだ居るのだ」と、むしろ感動した。
その観点からすると、社会変動に合わせて、自分たちも楽な方向に向かっていいとするかのような理事会決議は、簡単には受け入れる気にはなれなくなる。
結局、「憲章は理念なので、あまり深く書く必要はない」という意見もあって承認されたが、個人的には、何か付帯条件でも付ける必要があるのではと思いが強まり棄権した。
建築家協会、あるいは建築家という職能には凄い人たちがいる。そして彼ら、いや自分も含めて、会場を見渡して見ると、その多くが皆、後期高齢者だ。若者は逃げていく。




● 総会の後に、説明会、そして懇親会と続いたが、懇親会の場になって国土交通省住宅局長が関係者5、6人を伴って駆け込み登場。他の協会を回ってきたらしい。
昨年、就任した住宅局長はショートカットの若く美しく聡明な女性(不適切な言い方があれば失礼。若いと言っても56才)で伊藤明子さん。元気よく挨拶され、建築家を元気づけるべく、囲い込み(他の分野に逃げて行ってしまわないように、若手に手を打っていく)を考えているなどと述べた。判っているんだな、という気にさせたが、京大建築科を出ていても、あの「憲章」問題のやり取りの時に居てくれなければ、核芯の実感は得られないのではないか、という気にもなった。
彼女の趣旨を的確に伝えるのに、昨年の就任会見記事(日刊建設工業新聞2017/9/5)から関係部分を引用させてもらうと以下のようになる。さて、どこまでやれるのか。

 「建築士事務所の業務報酬基準(告示15号)の見直しでは『発注方式の多様化など建築士を取り巻く状況の変化を踏まえて見直していく必要がある』と強調。業界へのヒアリングなどを通じて、『発注者の体制や能力の低下、専業の設計事務所の危機感など違う課題も見えてくる。これらは業務報酬基準の改定で解けるものではなく、(建築士の)働き方改革とも結びつけながら考えなくてはいけないと思う。中期的な課題として受け止める必要がある』との見解を示した」(336316 6/28 16:30)








・18:15  336113