本当のことが判って来た

貧困大国ニッポン
―ホワイトカラーも没落する―


本当のことが判って来た。
湯浅誠さん。NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長の書いたこのトップ記事は、実によく書けている(文藝春秋8月号)。
ページ数にして11ページと重いが、内容にぬかりは無い。その緻密な論旨からして、ここで簡単に要約できるようなことでは無いが、現在の日本が直面している根本問題を明確に説明している。
それにしても、何らかの既成利権に繋がらないこういう人でなければ、書けないし、分からないことなのだろうと実感している。


基本的な認識としては、1980年代の中曽根政権に始まり、小泉構造改革にいたる一連の規制緩和政策が、これまでの日本型セーフティネットの機能不全を強く後押ししたということ。
これに関しては、僕がある方とのインタービュウを企画していて、そのために書いた草稿がほぼ当っているとの感触を得ている。それは以下のようなものだ。


時代の激変のなか、日本人は相互助け会いの精神で弱い者も助け、戦後を造って来たのではなかったか。そこにはおのずと自然発生的なセーフティ・ネット(救済措置)があったと言えよう。その過程で受け入れられてきたのが、グローバリゼーションであり、アメリカ型金融資本主義化の道である。そのことが弱肉強食化による格差社会をもたらしたが、デザインもこの影響を大きく受けている。
その原因は、「自然な形で在った」ことをいい事に、そして大企業体制社会の完成をいい事に、個人ベースの新しいセーフティ・ネットのシステムを創設、施行することを忘れてきたからではないか。
今、世界でも有数の経済大国になり、その一見のゆとりの中で自分を見失いつつある日本人が、政治、経済、文化のあらゆる面で忘れている重要問題の一つがこれではないのか。そこには、では救済すべきどのような社会的なシステム、仕掛けが必要なのかという問いも含まれている。(NPO法人「日本デザイン協会」2008企画案)


湯浅氏は「日本には貧困の明確な定義はない」という。
「驚くべきことに、1966年から40年以上も、厚労省生活保護の補足率―生活保護に該当する人たちのうち、どれだけが実際に給付を受けているか―すら把握していないのだ」
「1997年から2007年の10年間で、非正規労働者は580万人増加し、逆に正規労働者は371万人減っている。労働者全体のに占める非正規労働者の比率は3分に1を上回った」
「先進国に比べると、もともと日本政府の社会保障はきわめて貧弱だった。そこで国にかわってセーフティネットの役割を果たしていたのが、企業、家族、地域社会であった」
「…(これらが)働かないとなれば、貧困化を食い止めるのは、国による社会保障しかない。…(それなのに)GDPに占める社会保障給付費の割合は、17.7%。EUの平均26%を大きく下回っている」
「とくに日本の社会保障の大きな欠陥は、格差是正機能の欠如である。したがって、いったん貧困化への道を歩み始めると歯止めがかからない」


「…雇用保険、いわゆる失業手当が激しく減らされている。2001年以前は、5〜10年勤務で210日間需給できた(45〜60才)失業給付が、今では倒産・解雇でなければ90日しか受給できない。…保険料は引き上げているのにこれでは一種の詐欺である。
しかも、非正規労働が拡大して雇用保険に未加入の人が増えているから、給付水準の低下とともに受給率も低下している。1982年には59.5%だった失業保険受給率は、2006年には21.6%。およそ2割の人にしか失業保険が行き渡っていない。その結果、雇用保険の国庫負担金が余ったからといって1810億円も削減した。…
こうした社会保障費削減の多くは、法改正の不要なものである。つまり、国会で議論されることもなく、厚生労働省の判断だけで削減できるところから削られているのである」


「経済人は、日本は労働者の賃金や保険料の負担などのコストが高すぎる、このままでは企業はすべて中国などの海外に逃げていく、と脅しのように口にするが、果たして本当に日本を離れて世界で戦っていける企業どのくらいあるのか疑わしい。
高いモラル教育水準を備えた人的資源をはじめ、これまで企業は日本の社会にさまざまな形で頼ってきた。個人にだけ『自己責任』を押し付けるのはおかしい」


「これまで政府や経済界は、目先の利益のために、長期に渡って日本社会からセーフティネットを削減し続けてきた。それはもはや限界に達し、貧困ラインはいよいよホワイトカラー、中流層に迫りつつある。繰返すが、『貧困』は単なる経済問題ではない。日本社会そのものが崩壊の危機に瀕しているのである」


(時間の余裕を見て以下を追記)