S11

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石岡には友達がいて、そいつからいろいろ聞いていることがあった。
要するに設計士は芸術家気取りが多くて、信用ならない。ちゃんと合理的な見積もりを出す工務店に頼むべきだと言うのだ。
その友達、名前は岡田というが、役所に長らく勤めていて、キャリア組ならもう少し高いポストもあっただろうに、とても次官まで行かなかった。
「最近の耐震偽装事件も、設計士がいいかげんだからだ」
と、岡田は石岡に言った。


他にも、ハウスメーカーなら、今日話すと数日のうちには、営業マンが担当の設計士とインテリア・デザイナーを伴って訪ねてくれ、抑えた見積り金額も明確に示してくれる。何も得体の知れない建築家と称する人たちに頼むことは無い、と言っている友人もいた。
そんな情報が頭をよぎったので、すこし突っ込んで見たくなった。


「宮間先生。いろいろ出してくれてありがたいけれど、この崖地の構造でもいくら掛かってもかまわないと言うわけじゃないですよ。安全でできるだけ安い構造にしてもらわんと。その上での計画でしょ?」
「もちろんですよ。でも今回のプランは相当練っていて、残したい樹木を避けて、車の進入路を造るのにだいぶ時間が取られてしまいました。特に冬場の雪の時、滑り落ちないようにするのにスロープの計算が大変でした。それに、石岡さんも仰っていたように、居間からの眺めが周りの木立から抜けて向こうの山が見えるようにということで、どうしても、プランが先になりました」
「それにしてもだいぶ時間もかかった」
「それはすみません。いい家をと思っていろいろ考えてしまって…」

これは何にも反省していない、と石岡は思った。
一方、宮間は恒例の嫌な予感を払いのけるのに夢中だった。
何だ、あれだけああ、こうと希望を並べていたのに。出来上がれば満足するのは判りきっているから、こちらも夢中なのに…。どうして判ってくれないのか。
ここには、部屋の役割と配置や、敷地内の建物の位置、その眺め、車の出入りのしやすさなどから入ったプラン優先がかっこいい家にはなったが、構造とコストの計算、それに時間の短縮はそれから、とした宮間の甘さがあった。

すでにハウスメーカーが力をつけていて、それらをすべて同時進行で進めるように努力してきた現状を甘く見ていたのだ。あるいは慧眼な建築士が一早く、そのことに努力しているという事情も無視してきた。