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建築士って、なんであんなに態度がでかいんだろう」
石岡が抱き始めた実感だ。
こっちは客だというのに、相談に乗ってやるという態度だ。
もっとも、この気持ちを石岡は直接に出しはしなかった。やはり、「さん」とは言えず、先生と言って来たが、先生と言えるものか疑問のままだった。
特に、宮間に設計と監理とかいうのを依頼した今回の経験がその気持ちを強くした。

単純な話、いいものを造るといいながら、こうする、こうしたいと自分のやりたいことを述べ立てる。どうしてそれがいいにか、しっかりした説明は無い。
石岡にもそれなりの趣味があって、そのことを聞いてくれるのかと思ったが、そうではなかった。必要とする設備や自分の考える装備についてはよく聴いてくれたが、外観や仕上がりについては、どうも違っていた。
「まあ、それはいい。先生はプロなんだから、思うようにやってください」
そう言って切り抜けて来た。

もっと疑問なことは、工事の松葉工務店がよくやってくれて、気がついてみると宮間がいなくても工事が進んだことだ。東京からだと日参するわけにも行かないし、交通費や日当も生ずる。これだけでも、宮間さん、大変だから来なくてもいいよ、と言いたくなる。
俺がある程度わかってきたから、直接、松葉の専務に連絡すると、こいつが建築士でもあるので何でもわかってくれる。
こうなると宮間の存在意味は一段と薄くなったように思えた。