「デザインの心」レクチャー

【情報】


「デザインの心」と言えば、拙著のタイトルに近似ですが・・・


去る10月30日、この表題の集会がありました。
当協会(「NPO日本デザイン協会」)と同じNPOであり、主旨に近いものがある、「デザインニッポンの会」との協同事業として、4人の講師をお招きして1時間半づつ自由に語ってもらうというものです。
台風が近づいており、天気が悪く、夕方に近くなるにつれ退席者が出てきてしまいましたが、よい内容でしたので以下にサマリーを記します。



「デザインの心」レクチャー:4人のお話
                  


レクチャー1: 石井幸男氏の 「天然素材の有効活用」の話


2005年に開催された、愛知万博の日本館(「長久手日本館」)が「竹のドーム」だったことを覚えているでしょうか。この巨大なパビリオン(長さ90㎡、巾70m、高さ19m)に使われた竹が、石井社長のところのものでした。

この竹材の作り方は、天然材をそのまま特殊な燃焼室に入れ、熱と煙で70〜200℃で5日間くらいセンサー管理で燃焼させるのです。化学薬品などは一切使いません。
そうすると素材の水分は水蒸気となり、主にヘミセルロースが分解され、それぞれの成分が融和しながら固定化され、強度や耐久性が飛躍的に向上するのだそうです。竹や木材は反りや曲がりが少なくなり、小口や節にも釘が打てるほど加工しやすくなり、防虫防腐に優れ、ヤニが出づらくなります。
この技術(EDS工法という)を使って建材にしたり樹脂を取ったり、更には食材の加工も出来るそうです。

世界では、使い道もないまま伐採され放置されたりしている廃材や間伐材があふれているようです。これらを活かす技術としても卓越した役割を担っているのがこのEDS工法による素材改良で、日本でも世界でも沢山の特許を取得しています。
石井社長はこの技術をUNIDO(国連工業開発機関)を通して、東南アジアなど世界で講演し普及に努めてきた人です。こうして発展途上国と呼ばれている国に住む人々にも、資源開発と森林保全のシナジー効果をもたらし、「資源循環型の持続可能な開発」の一翼を担っているのです。
紹介された群馬県赤城山のふもとにあるプラントは、19m×8mもある巨大なもので、滑車で素材を引き出す台車は15mも引き出されます。



レクチャー2: エサ・ヴェスネマン氏の 「フィンランドのピュアなデザイン」


フィンランドと日本は比較するものがない状態のように思います。エサさんは自分が、2,3人は泊まれるようなヨットの持ち主であることから話を始めました。バルト海側は周りが内海で、200とかあるという島々の間を縫うように海が入って来ています。
ところがこの海が最近汚染されているとのことです。ヨットも自分のものは古いので素材がいいものが使われているが、最近は良くないとか。
そのあと、自分のデザインした木製家具などの紹介がありましたが、どれもピュア(純粋)でシンプルな美しいものでした。

フィンランドはまた、言語的に周辺のどこの国とも似ていず、東のロシア、西のノールウェイ、スェーデンとはあまり縁がない雰囲気があり、出てゆくとなると結局アメリカの方になってしまう、という話も聞きました。どうりでというか、何か孤高、孤絶なメンタルと表現が身についているような気配でした。
余談ですが、後の名刺交換で自分(大倉)の仕事を紹介し、この話になったところ、「あなたのようにもっと自由にやりたい」と、世辞ともつかぬことを言われました。



レクチャー3: 勝矢武之氏の 「ビル建材となった木材」の話


勝矢氏は我が国最大の設計事務所である日建設計に勤務。最近の仕事は8階建て(要確)の「木材会館」(東京、木場)の内外装で話題に(農林水産大臣賞など受賞)。今回はこの建物の仕様を詳しく見させていただきました。

この建物はクライアント(東京木材問屋協同組合)の希望もあって、木材を内外装にふんだんに使うという未踏の実験場のような設計となったようです。
杉1本で二酸化炭素(CO2)を年間14㎏吸収する能力を有するので、環境保全には欠かせない素材でもあるのです。
まず、日本の森林は世界有数の規模であり、そのうち天然林(自然に育った樹界)が5割で、残りの4割以上が人工林とのこと。敗戦後の昭和25年から45年にかけて拡大造林政策がとられ、人工林が「使うことを前提」としていたため、樹齢40〜60年が使用時期となると現在が伐採の時期であるのだそうです。
ところが輸入材も入ってくることもあって使われていないのです。
その理由は、①燃える、ばらつく、経年変化する ②施工規模が小さい、高価である、ばらつきの処理に問題といった加工・施工技術的問題 ③スケール問題(ある寸法、高さまでしか出来ない)などで、なるほどと思わせますが、逆に今では、燃えても安全な材加工の完成、ばらつきこそ自然で美しい、NCマシーンでカットなどをコンピュータ管理、スケールの小ささはまちと家具をつなぐ親密な人間的スケールに合うなどのメリットにも繋がってくるはずと、間伐材の利用が叫ばれているのです。

こういう流れの中で、まさしく打ってつけのクライアントを得て、勝矢氏は木材を大々的に活用し新しい親和空間を造ろうとしたとのことです。
使用材は杉で、ほとんどの外部壁・天井をスタンダードな105×105㎜(3寸半)を数センチ空けて繋げてゆく、深い庇の外装としたそうです(主要構造部は鉄筋コンクリート)。
スライドで、新鮮でいい雰囲気の建物を見せてもらいました。



レクチャー4: ジャドソン・ボーモント氏の 「これは不思議の国のアリスの家具か」


ワハハと笑い出したくなるような家具、また家具の連続でした。
何が面白いかというと、反り返ったモノ入れ棚、まん中に亀裂の入った引き出し、傾いた本棚、中央に爆弾が貫通したかのような孔があいたロッカーなど、それらが引出しの取手が両目だったりしながら、各部が、いわば勝手に原色っぽい色付けで何がしかの人か動物かのイメージに収斂してゆく、といった按配だからです。モダン家具などの概念は全くない、底抜けに自由で愉快な家具を造っているアメリカ人でした。
これらの家具は、家具というだけあって、引き出しなどは十分実用性があるのです。自家製で注文制作が基本のようです。
最初はシャープなエッジ彫刻を造っていて、それはきれいなものですが、途中で大転換したのです。

これらの仕事を見て、こういう世界もあるんだな、ということを教えてくれました。
ジャドソンさんは、エサさんもそうですが、ちょうど開催されていた「東京デザイナーズ・ウィーク」で、自分の展示ブースを持っていて、こちらはいわば、関連出張講演という形になったのです。



まとめ: 木材の展開の多様性・多面性を見た


以上を聞いて、木材系素材の多様な使い方、保護のありかた、お国ぶりなどを把握できました。レクチャーですから、議論を深める話ではありませんが、素材の世界の広がりを意識することが出来、大変勉強になりました。
来年度も「デザイン・レクチャー」を続けていく予定です。ご協力をお願いいたします。  

                                         NPO日本デザイン協会 大倉冨美雄(編集担当)

                  開催日:2010/10/30(土)11時〜18時
                  場所:丹青社本社(東京都台東区上野5‐2‐2)