中国やイタリアのデザイン戦略 Design strategy in Asia

国の施策とデザイン 

Design strategy in Asia――through observing the technical design exhibition in Hong Kong

   

日本の問題は、グローバル企業と中小企業の格差問題に発展している。

このところグローバル企業の成長率は年2.5%だが、中小企業のそれは0.5%とか聞いた記憶がある。賃金では前者が年平均700万円なのに、後者は年270万円とも聞いた。それでいて日本の企業は中小企業が65%を占めている。
グローバル企業は利益も給料も貯金や金融商品に回し、国内の需要に振り向けていないとのことだ。
これを解消するには政治しかない。その方法が、この前のブログに紹介したマルガリータエスティベス・アベの言う、「公的セーフティネット」なのだと考える。


こういう我国の状態は産業がある種の成熟状態にあることによって生じている。
今や生産中心の考え方では何も購買意欲をそそらず、そこに複雑多様な価値付与をしなければならない。このような社会でのデザインの役割はその意味が大きいにも拘らず、グロ−バル企業、これまでの近似大企業では、その価値創造を内部化し外部に発注しない。またそれほど複合化し、継続研究開発化し、知財権の内封化も必要になっているとも言える。

一方、中小ドメスティック企業はまったくその反対で、このような知識の共有が出来ないでその日暮らしになる。ここでは、というより、ここでもデザインを戦略に活用するに至らない。


以上はかなり模式図的な説明だが、日本のこのような状況を見ると、なぜデザインが国策レベルのツールや戦略にならないかが判る。日本のこのような産業構造では、デザインを国策にするニーズ、あるいは大きな呼び声が産業界そのものに無いのだ。


そうして見ると、他国の対応がまったく違うことの意味が判ってくる。

特にここでは、それがすさまじい中国と、イタリアを取り上げよう。
そこにあるのはまさにデザインを使って、国の利益、ひいては民間の利益をあげようという熱意である。


現在の中国、すこし溯って韓国は、生産力向上と国際的市場の拡大が至上命令だ。格差は巨大だがまだ「建前としてでない政治の最大問題」になるには時間が掛かろう。
これらの国ではかって日本が輸出振興のために工業デザインの奨励を国策としていたように、現在、デザインはむしろ国策になっている。それはかっての日本以上であり、彼ら政府の要人にとってもよく理解出来るのだ。「日本のように良いものを作るには、日本がそうして来たように、デザインの力が必要だ」との暗黙の合意もあろう。
それは一般にプロダクト・デザイン、グラフィック・デザインであり、現在の日本が遭遇しているような綜合化されたデザインの問題についてではないにしても。


いっぽう、イタリアはデザインで売ってきた国と言う自負があるから、正面から切り込んで来る。

ちょうど最近の情報で、このイタリア事情、ひいてはその会場のある香港のデザイン事情がよく分かる報告があったので、関係者各位の了解を得て、説明代わりにその報告の一部を紹介させてもらうこととする。


◆◆香港 I D E 展に出展して感じたこと◆◆
  

昨年12月12〜14日香港コンベンションセンターで開かれNOVATIVETACHNOLOGY & DESIGN" にて "JIDA STANDARD SAMPLES"をアピールしてまいりました。
客の入りは結構多く、小さなブースながらも日本のデザインに対する関心の
高さが伺えました。


今回のパートナー国がイタリアということで、一番目立っていました。
前回はスカンジナビア三国だったそうです。香港としては日本にパートナー国になって欲しいということで何度かオファーをしたそうですが、駄目だったそうです。


イタリアブースは入口正面で、200坪ほどの広さがあり、ファニチャーにとどまらずランボルギーニやドカティまで持ち込んで、さながら国家事業といった印象です


この展示会では香港で選出した「アジアデザイン大賞」の受賞製品が展示され、
表彰式も行われたようです。日本製品も多々受賞しており、表彰式のために
多くの関係者が来場していたようです。
また、初日には過去10年間に受賞した製品10点がオークションにかけられ、
収益金総額200万HK$(=3200万円)はすべてデザイン関連の教育費に寄付されたとのことです。


ここでも中心に巨大なイタリアのブースがあり、ドカティ、アレッシ、ファッション、椅子などが展示されていました。イタリアは国を挙げてアジアへのブランド戦略を仕掛けている感じがしました。今回の展示会に来場した方は「デザインといえばやはりイタリア製品だ!」と感じることでしょう。お金を儲けてデザインの良いものを買うときは、まずイタリア製を考えるに違いありません。
これほど大掛かりなことはできないでしょうが、我々も国を後ろ楯に日本製品のデザイン品質の高さをアピールする必要があると感じました。

       (記: JIDAスタンダード委員会委員 古賀康隆氏)
(注記:JIDA東日本ブロックニュース2007年12月号2008年1月号No5から。JIDA=社団法人日本インダストリアルデザイナー協会)


これでよくわかるが、中国(この場合香港)、イタリアの熱気が感じられる。