ダニ・カラヴァン Dani Karavan

空間が切開く絶叫


I didn't know who is Dani Karavan.
Now it's became clear.

ダニ・カラヴァンを知ってる人は少ないだろう。
10年以上も前か、多分、イタリアの建築誌かデザイン誌でその仕事を見た。カラー写真だった。

絶壁状の入江の上から、その海面に向かって急降下する切り通しが出来ている。その三面は多分厚い鉄板を溶接して繋げたものだろう。斜めの陽を浴びて錆び鉄色に染まっていた。見たところ巾2メートル、高さも同じ位。部分的にこれを横断するように強化ガラスの間仕切り状のモノがあるように見えた。というのも空中に、文字が…多分、キリスト教の経典の一句とか、あるいはゲーテやシラーの詩でもあるのかもしれないが、それがモダンな字体(ヘルベティカなど)で書かれているのが見えたからだ。


切り取られた波打つ真っ青な海面!
空中に浮かぶヘルベティカ!(僕はこの字体が大好きなのだ)


想像も手伝って、誰だろうこんなことをするのは、なぜこんなことをするのだろう、それにここはどこだ?(ほとんど作品の紹介がなかった)という疑問を持ったのが最初だった。


かといって、その後カラヴァンについての知識が増したわけではない。ただ、この切り通しが岬のような所に立つ教会堂の敷地内であるらしいことが、別の外国雑誌の航空写真でわかった。その時、多分地域の名がわかったのだが、その記録の存在も、記憶もまた無くなってしまった。
それはスペインとか、ギリシャとか、トルコとか、そのあたりだったのかも知れない…。


というわけで、雲を掴むような話だが、この彫刻家が東京・世田谷美術館で回顧展を行なっているのだそうだ。(9月21日の日経新聞。展覧会は10月21日まで)


そこで初めて(日本の地方美術館でプロジェクトをやったという、後情報は時たま聞いてきたが)、新聞紙上で考えや周辺情報を掴まえることが出来た。ということで、まだ見ていないし、以下は記事情報からの推測。



やはり、というか、イスラエルの作家だった。
旧約聖書ユダヤ人の運命、ホロ・コースト(大量虐殺)、祖国、記憶…これらがすべて彼のものだったようだ。当然、平和そのものや、平和への願いは自らの思想形成の核になっているようだ。


彼は言う。「私は場所の持つ記憶に興味がある。どんな場所にも必ず記憶はあり、彫れば出てくる。だから、どこで作るかによって作品はすべて異なる」
記事を書いた白木緑氏は「掘り起こすのは公共の記憶ばかりではない。ときには自らの私的な思い出も投影する」という。


結局、彼はこう言う。
「私は異なる場所と場所をつなぎ、関係づけることを目指してきた。人々を結ぶ文化の力は、人々が長く平和に暮らすために、大きな役割を果たすと信じている」


それにしても宗教観が背景にある、見ても判るか判らないか、というような創作。
あの波立つ海面の脅迫的な迫力は説明不可能なのでは、と思ってしまう。