伊東豊雄さんのこと Architect Toyo Ito

かたくなな心を支える、人にやさしい空間計画の魅力


Fascination on planning of human space must be supporting his stubborn mind.




今晩の伊東豊雄さんのテレビ番組(NHK第1、22:00「ザ・プロフェッショナル」)、面白く拝見した。
何年も前に、最初はイタリア貿易振興会の招待作品会で一緒に招待されて、その後はデザイン団体理事長時代の企画に来てくださり、しばし談笑した。その時に、まだ仙台メディア・テークを見ていないことをお詫びし、デザイン協会理事長の雑務に追われている-ことを話したら、「そういう時期があってもいいのですよ」と言ってくれた。
それ以後は、分野の違いというのか、業務の違いというのか、お会いしていない。


久しぶりにテレビ上でお会いした格好で、お手紙でも出そうと思ったくらいだ。
というのも、彼の言うこと、やっていることは妙に判るところがあるので、大いに参考になったことを伝えたかったからだ。年代も同世代ということもある。伊東さんがパソコンが出来ないと語られた時、思わず笑ってしまった、などというのも僕らの世代にありがちな公然たる秘話だ。妙に親近感につながる。
設計経過の中でCADの話がほとんど出て来ず、少々稚拙なコンセプト・スケッチと模型が主役なのも面白い。そういえば、各階基本階層の固定や、意外と天井がフラットだったりするのを見ていると、模型主軸の考え方は、最終フォルムにも現れているようだ。
そこで、感じたことをこのブログでメモにしておくことにした。


伊東さんはかなり不器用な人なのだろうというのが結論だ。
一点集中型で、他のことが出来なくなる、というより、一つのこと、この場合は自己人生を一つの目的に向かって投機する(哲学的にはよくアンガージュマンと言われる)ことに賭けた以上、他のことをやっている余裕が無くなるというタイプなのだと思う。
それはもっともなことだ。ここまで国際的な評価を得た以上、巨匠時代は去ったとは言え、彼の意識の中にはやはりコルビジュエやライトが比較対照としてあるのだろうから。
その、ここまで来た建築家なのに、事務所が自分の設計したビルでなく賃貸ビルなのはなぜかと、茂木さんが不思議そうに聞いていたが、彼の意見は、借金の返済など面倒なことが多くなる、そういうことに煩わされたくないということだった。
これも至極よくわかる。
実際、コンペ稼業ではリスクがとても大きい。番組では4ヶ月間、ノールウェイのコンぺに賭けた記録を流していたが、最期に落選したことが判った。失礼だがざっと計算して10人のスタッフ(見たところ若者が多い。アルバイトも想定)として考えると、4ヶ月間これだけやっていると最低でも500万、多ければ1000万以上は掛かっているだろう。これを他で稼いでおいてプールしておかなければやれるものではない。こういう、見る人によっては無茶ともいえる事業観念をもってやっているわけだから、哲学ともいえる凝り固まった、というより、かたくなな信念がなければとてもやれないのだ。ということは、借金の苦労や、人材確保など、他に気を取られていたら、よほどの能力がないと本業に専心できなくなってしまうのは明らかだからだ。(もっとも招待コンペのようだから、最期の明るい顔からすると何割かは支払われたのだと推定するが)
別に、彼は改正建築士法建築基準法については一切語らなかったところに、「外国コンペ参加」という問題提起がある。


しかし彼には、結果としての勝者確率5割の実績があり、その5割は利益をもたらし、その仕事の完成時の満足と称賛の思い出がすべてを帳消しにしてしまうはずだ。何よりも、コンセプト・プランを考えることは楽しい。これは大学で学生相手に卒研を評価する気分と同じで、学生との差は経験量による判断力の差だけだ。


仕事の進め方は、事実自分でも、大学の課題授業みたいなことをやっていると笑っていたように、きわめて見え透いた仕事の進め方だと思った。ただし、目先を変えるだけだという批判もものともせず、「新しいことをやる」ということへの執念は素晴らしい。
こういう伊東さんを改めて見させて頂き、共感を持ち、そのまま自分への反省と共に多いに参考になった。同じことが出来るわけではないが、自分なりのスケールで参考にさせてもらおうと思ったところだ。