T3 鎌倉山の家所見

T3

時間をかけて見せられたので、わかった気になってしまった鎌倉山の個人住宅の所見。



ナレーターがやたらと「甲村(?)先生」というので、これは凄い宣伝になるな、と思いながら、今夜のテレビ東京(12CH)を途中から見ていた。
「完成ドリームハウス。湘南の海を望む鎌倉山。施主大興奮!…光あふれる大開口36畳リビングと露天風呂…複雑な工事に挑む職人…土間と坪庭の空間…変化自在間取り和室」。

こうなると同業者といえども,自分の設計をさておいて見たくなってしまう。というより参考までにも見ないわけには行かなくなる。 8時のゴールデンタイムから2時間も取った超ロング番組なのだ。この番組を見ていない方には、文章だけの紹介となってしまい、申しわけなく思っている。


結論は、個人的面識はないが、なかなかセンスのある設計者と言える。光、素材、色を意識的にしっかり使い分けている。つまりデザインがわかっている。コウムラ・ケンイチ先生と言っていた。40代の人。経歴は知らない。
ナレーターの解説と質問の仕方は、素人相手では、こうでなければならないだろうというほどの巧みさだが、案内役の渡辺正之は感心するばかりで脳がない。


建て主はスティーブン・ロビンソン夫妻とのこと。主人は「和風」をこよなく愛するイギリス人で、東京で働いていて夜鎌倉に帰ってくる。見たところまだ若い。


建物のイメージはまさしく「和風モダン」で、その気になれば、今、大流行りと言えよう。ちょっと間違うと、和風飲み屋か、温泉地旅館の最新築離れとなってしまうきわどいところ。それでも、建売住宅に見あきた目には、こういう建物希望の建て主にぜひ出会いたいものだと思ってしまう。


一階の床と天井を焦げ茶色(塗装完成品)にし、テラスから見える鎌倉山からの絶景(江ノ島と富士山が同時に見れる)へ視線が向くようにしている。露天風に配慮された浴室。ファイバー紙によって仕切られた開放的な障子間仕切り。二階は高窓も設け、採光力をあげた明るい白壁と天井。玄関は腰掛け土間として邸内に深く食い込ませている。巨大な御影石の、トップ本磨き・周囲石割りのままという沓脱ぎは見事。サッシ臭さを見せない、スサ仕込みの塗り壁など、どれを見てもそれなりにこなれていることがわかる。


渡辺がこの奥さんに向かって、「これでは見られてしまって不安ではないですか?」という。半戸外で露天扱いの埋め込み浴槽の浴室も、屋根の下、奥深くにあり、その前にタイル床のくつろぎスペース、その前にベランダがあり、水平線上に、向こう側から覗かれそうなものはない。まったくそんな心配はないだろうに、浴室が解放され露天風になるだけで「いやだ、覗かれる」という心理は日本人独特のものか。一方で自然にさらされたまったくの露天風呂には悶着しない風情もある。
自然と裸身で接する開放感は体験者でないとわからない。
僕自身、何度か別荘設計のみならず街中の住宅でも、施主に、湯上り後、外に出て汗をぬぐうゆとりの空間が必要なのでは、とすすめて来ているが、ほとんどが見られるのでとか、あるいはスペースがもったいないということで、その必要がないようなことを言われれて来た。
たかが五体、見られたって何だ、と言いたくもなるのは身勝手か。


この家もイギリス人なので、独立シャワー室があり、その上での浴室がある。
彼らは習慣的に、日本人的な意味での入浴作法がない。体を洗うのはシャワーでよく、その代り何度でも浴びる。あるいはまったく浴びない。これは性生活の有り様とも関係している。
一般に水シャワーも多く、これが冬でも薄着でいられる皮膚創りに役立ているのではないかと思う。
こういう習慣から裸でいられる時間と空間は、周囲の空気と空間に皮膚感覚を解放し、自己の存在を確認できる貴重な場所となる。日本の露天風呂は外国人にもこれを教えたと思われるのに、当の日本人自身がこのことに疎い。
僕もこれを導入しない手はないと思っている。だからよく住宅雑誌にある、全面ガラス貼りの中にある浴室というのとは全く違うことをよく理解する必要がある。


映像でしか判らないが、空間量も適当なのだろう。正方形に近い平面外形。プランは何とも言えないが、あえて言えば、こまごまと配慮した結果と、イギリス人らしい部屋の機能空間分けの要求からか、番組案内とは反対に、全体にチマチマした感じが残った。浴室の洗面台廻りは造り込みすぎ。そのほかは、手すりとか、ビルトイン冷蔵庫・キッチン収納とか信楽焼の洗面器とか、プロダクトデザイン的目線にも気配りできていて頼もしい。
外観は真っ黒な塗り壁で玄関側は10度程度の外反り傾斜。この北側に窓は一つもない。両側はもう既存の住宅がびっちり建っている。この外観はこうしか無かったのだろうが、あまりそそられない。玄関はちょっと奥まっての一枚扉。開けた時に一気に、土間を通して南面の景色が飛び込んで来るようにしてあるのはよい。


建坪は10m×10mで100平方(30坪)くらい。
木造2階建ての工事費は設計料込で4960万だというから、設計料12%として工事費4428万、設計料532万ということか。容積を60坪としてみると工事費は坪約74万となる。崖地でもあるだろうし、極く順当な内容ではないか。
しかし、今一般には高い建物なのだろう。


最後の30分だけ見た奥方は、「3200万!」とか値踏み、口走った。
「流行りの家ね」、
「外国人だからこれだけの収納で済むのよ」
「夜は部屋の中を明るくするから夜景は見えないわよ」
「網戸が入っていないわね」
そういえば、風通しの状態や雨風対策、メンテナンス、季節の変化への対応などはわからない。
もっと気がかりなのは、日本語が話せるロビンソン氏が、見ていた限りではいいとも悪いとも言わなかったことだ。もっぱら彼の日本人奥方が対応していた。「施主大興奮!」はどこにいったのか。