建築を見る目の罪深さ

【新トーク:モノ】(写真:カーサ・マラパルテ)  補修:20150128




建築を見る目の罪深さ



モノって何か。
からだもモノなのか。都市だってモノから出来上がっていると、どこかで述べたことがある。
カタチはモノの外見のことか。なら都市もモノの外見のことになる。
こうして、からだもカタチから出来上がっている、都市もカタチで出来上がっていると言えなくもなくなってくる。
これらの話をしていくと、すべてがカタチであり、それは物質であるような感じにもなりうる。そしてそれは外見のことであるから「見た目」での評価ということになる。

物質なら人間の感情が入る必要がない。面倒くさくない。科学者でもなければ「見た目」ですべて片付くかもしれない。
たぶんこうして、人間の心情などを計らない考え方がまかり通る世界が出現するのだろう。
ものすごく直論だが、これで進むと、そういうことでもいいんだろうと思われてくる。実際、ある種の科学者たちは、この世のあらゆるものをこのようなモノの集積と見て、その分析に入っていくのかもしれない。

私の考えでは、世界をモノ、空間、アートとして見ていくときに、以上のようにモノも空間もアートもみんなカタチであるとしてしまうのに対して、まず、それは一応認めようということになる。そうした上で、その一方で、それを生み出したのが人間であるから、そこには創造上の理性、つまり経験が教えるものやモノのもつ機能や経済性、それが成り立つための手続きなどが秘められているということ、あるいはそれが偶然にしろ意図的にしろ、人間の情念や欲望が含まれているのだという立場に立つ。
そうなると、あらゆるかたちの成り立ちについて、見た目だけで「かっこいい」とか「グロテスクゆえに美しい」などという言い方や、他に似たモノが無いから「ユニークである」などの言い方や評価には、直感的な表現だけに、表面的な言い方なのか、深読みした発言なのかわからない場合が多いことになる。

しかし不思議なもので、カタチだけの美しさやグロテスクさで、人の目に焼き付いてしまうモノがやたらと多いのも事実だ。だから、それはそれでいいじゃないか、という考えも出てくる。それは現代アートのある方向である。
メディアにしても、そうして扱う方が「人目に止まりやすい」なら、その方が話題性、売り上げに繋がる、として、カタチの新規性、変質性を軸に追い始めるところが出てくる。

建築やプロダクトデザインはそういう意味で、一番面倒な問題を持ち込んでいる分野だと言えるだろう。

グループで一緒に旅した、設計コンペの審査などで建築界では有名な近江栄先生が、ビルバオ(スペイン)のグッゲンハイム美術館を散策中、「やはりカタチだ!」とうめくように言われたのが忘れられない。
と。
最近の例では、「死ぬまでに見ておくべき100の建築」(月刊カーサ・ブルータス。2013、8月号 マガジンハウス社)というのがある。
まさにカタチを軸に選んだ建築例のオンパレード。その多くは前例を持って紹介済であり、取り上げられるのに異存はない。(意外なのが、ジオ・ポンティのソレントのホテル、重森三玲の庭、イサム・ノグチの美術館と公園、ホテルとして紹介されているいくつか、アルヴァロ・シーザの設計というポルトガルのプール、妙喜庵待庵、ヘルツォークとド・ムーロンのシグナボックスなど)。

こういう紹介作品を見ていると、制約がほとんど無いような設計条件と、理解あるクライアントに巡り会えて、思い切り自由な発想でとんでもないモノを造ってみたい、という妄想に駆られる。その場合には誰にも負けない自分を出せると思わずにはいられない。「そうだ!カタチだ!」と。
一挙に建築の話に飛んでしまったのでついでに言うが、私も見ていないものもたくさんある。カプリ島ナポリ沖合)にある「カーサ・マラパルテ」は、ゴダールブリジット・バルドー主演による60年代映画「軽蔑」の舞台になったとき、こんな断崖絶壁の上に変な家を造ったものだな、一度見てみたいと思っていたし、実際、丘の上から望遠したが、やはり段々、話題になってきたようだ。例えば、この建築こそカタチそのもので、外階段付きトーチカのようなもの。しかし、こういう一般誌でも取り上げるとなると、影響は半端でなくなる。

しかし、「取り上げられるのに異存はない」とも言ったが、これらの全部が「見ておくべき=いい建築」という訳ではないし、あるいは、「話題の建築」であるにしても、これで建築家の目指すべき方向がすべて確定しているわけではないことを、学生諸君たちは判っているんだろうね、ということは言っておきたい。くつろぎ感や窓からの眺め、太陽光線の入り具合、風の流れ、遮音、更には機能動線など人間の感性や生活に密着した空間を創っていくと、それは驚きのカタチとはほとんど関係ないものなっていくことも十分あるのだ。







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